尖閣諸島の領有権問題
霞山会
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2001年10月号 バックナンバー
中国の事前通報による東シナ海海洋調査活動
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杏林大学社会科学部教授 平松茂雄
今年四月上旬から七月末までの四カ月間に、 東シナ海・日中中間線の日本側海域
で、 中国の十三隻の海洋調
査船が海洋調査活動を行った。 これらの調査活動は、 それまでの海洋調査活動がわ
が国政府の許可を得ることな
く行われた調査であったのに対して、 今年二月、 わが国政府と中国政府との間で取り
交わされた 「口上書」 (後
述) に基づいて、 中国政府が調査活動を事前に通報し、 わが国の外務省がそれを許可
したものである、 と外務省
は説明している。 だがボーリングを行ったり、 エアガンを使うなど、 資源調査を行ってい
ると見られ、 日中で合意し
た 「海洋の科学的調査」 の範疇を外れていると考えられる活動を実施している疑いがあ
ったり、 事前通報がないま
ま実施されたもの、 事前通報をしてもわが国政府の許可が下りないうちに調査を始めて
しまったもの、 事前通報をし
てもわが国政府の許可が下りないうちに調査を始めてしまったもの、 あるいは調査期間
や調査内容を勝手に変更し
たもの、 さらには調査海域にわが国の領海を含めているものなどがあり、 わが国の外
務省の対応に重大な問題が
続出しており、 事前通報制度そのものの在り方が問われている。
以下においては、 「口上書」 に基づいて二〇〇一年四月から七月末までに実施された
中国の海洋調査船による
調査活動の実態を明らかにし、 その後で何故そのような無法状態が生まれたのか、 事
前通報制度が生まれるに至
った経緯を探ることにする。
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一、無法状態の中国の海洋調査活動
中国政府からの事前通報は二〇〇一年七月末までに十三件、 二月十六日、 二月二
十二日、 三月二十三日、
四月二十七日、 五月二十九日の五回にわたって行われ、 合計十三隻の海洋調査船が
参加した(1)。 事前通報の
ない調査は一件、 一隻であるが、 事前通報の内容にも重大な問題があり、 十三隻の海
洋調査船のうち通報通り
の内容で実施された調査はほとんどないと言ってよく、 事前通報制度は始めた段階か
ら、 中国自身によって形骸化
されたと言ってよい。
最初に通報のあった 「海監18」 号、 「海監72」 号、 「海監49」 号、 「大洋1」 号の四隻
のうち、 「海監18」 号と
「海監72」 号は、 二カ月前に事前通報するとの 「口上書」 の規定を無視して、 三月十五
日〜六月二十日の期間
に、 海洋気象観測を実施することを通報してきたばかりか、 五月二十九日に海域の拡
大および調査期間の変更
(五月二十三日〜七月三十一日) を通報、 さらに六月二十日に 「海監18」 号は海域の
拡大、 「海監72」 号は海域
の拡大および期間の変更 (七月三十一日〜八月二十日) を通知してきた。 「海監49」
号は三月二十日〜四月二
十日の調査期間に海洋気象観測を実施するとの事前通報に対して、 五月二十九日に
海域の拡大および調査期間
の変更 (五月二十三日〜七月三十一日)、 六月二十日に海域の拡大を通知してきた。
これら三隻の調査海域に
は、 わが国の領土である硫黄鳥島の領海が含まれていた。 「大洋1」 号は四月二十日
〜五月十五日に調査期間
に海洋気象観測を実施するとの事前通報に対して、 調査直前の四月三十日に期間を五
月八日から六月四日に変
更するとの通知があった。 調査の対象海域については後述する。
二回目に事前通報があった調査船は、 「実践」 号 (三月十五日〜二十八日)、 「興
業」 号 (三月二十日〜八月
三十一日)、 「勘407」 号 (四月一日〜十五日)、 「奮闘7」 号 (四月一日〜五月十五
日) の四隻で、 事前通報の
時期がいずれも二カ月前という規定を守っていない点は、 第一回と同じである。 また
「実践」 号は直前の三月十三
日に 「海監52」 号に変更され、 「奮闘7」 号は三月十九日に海域の縮小および調査期
間の変更 (五月二十日〜六
月二十日) があった。 「実践」 号と 「海監52」 号の調査海域はわが国の領土である尖
閣諸島の久場島 (黄尾礁)
と大正島 (赤尾礁) の領海を含んでおり、 「奮闘7」 号は調査海域に尖閣諸島の久場
島 (黄尾礁) と大正島 (赤
尾礁)、 久米島、 硫黄鳥島、 横当島の領海海域を含んでいた。 なによりも注目したい
点は、 最初の調査船の調査
内容が気象観測であったのに対して、 温度・塩分・海流観測、 水深海底地形調査、 海
底地質調査、 地質構造調
査など、 「科学的調査」 の範疇を外れた資源調査あるいは軍事調査を目的としていると
思われる内容の調査に変
わっていることである。 特にそれまで東シナ海の日本側海域で何回も不法な調査活動を
行ってきた 「奮闘7」 号
は、 「口上書」 にエアガンの使用を明記していた。
三回目、 四回目、 五回目の事前通報による海洋調査を行った調査船はそれぞれ 「科
学1」 号 (五月二十五日〜
七月二十四日よ、 「向陽紅9」 号と 「向陽紅14」 号 (七月一日〜八月三十日)、 「海監
52」 号 (八月一日〜九月
十日) で、 期間その他の変更もなかったが、 目的は地震測量、 海洋環境調査、 温度・
塩分・海流観測など地震探
査と資源探査などを目的とする調査であることに加えて、 「科学1」 号、 「向陽紅9」
号、 「向陽紅14」 号は調査海
域に尖閣諸島の領海を包摂していた。 なかでも 「科学1」 号の調査海域は、 尖閣諸島
全域から対象海域の東シナ
海を越えて、 西表島の西端を通って、 与那国島などの領海を含めて同島の南方海域ま
でを包摂していた (図1参
照)。 これら三件の調査活動に 「同意が与えられたのは、 「向陽紅9」 号と 「向陽紅
14」 号が六月二十九日、 「海
監52」 号が七月三十日と事前通報を受取ってから外務省が許可するまでに一カ月程度
の時間を要した背景には、
このような問題があったからと推測される(2)。
事前通報がなかった海洋調査船は 「奮闘4」 号で、 存在期間は七月八日〜七月十日
であった。
以上から次のような実態が明らかになる。 第一に、 中国の海洋調査活動海域は図1
が示すように、 東シナ海の
日本側海域の全域に及んでいるばかりか、 日本側海域に点在するわが国の領土であ
る尖閣諸島をはじめとするい
くつかの島嶼の領海を包摂している。 さらに一部の調査では、 東シナ海の対象海域を
越えて、 先島諸島および同
諸島の太平洋海域にまで及んでいるばかりか、 ケーブル (エアガン?) を引きながら、
宮古島南東海域から先島
諸島の太平洋海域に沿って航走した後、 北上して与那国島の西側海域を通過した。
次に調査内容については、 海底地質調査、 地質構造調査、 地震測量などの資源調
査ばかりでなく、 温度・塩
分・海流観測、 水深海底地形調査など潜水艦の航行に関係した調査が実施されてい
て、 「科学的な調査」 の範疇
を逸脱していると推定される。 特にエアガンを使用している調査が地震探査を行ってい
ることは確実であり、 また
「勘407」 号は一日ではあったが、 地質ボーリングを行った。 それらの調査を実施した
調査船は国土資源部所属の
調査船であるから、 それらの目的は資源探査にあることはほとんど間違いない。 外見
上特異な活動をしているよう
には見えない調査船でも、 重力探査・磁力探査などを行ったと推定される。 海洋調査の
対象海域の海底の広範な
部分は大陸棚であり、 中国の海洋調査活動が資源探査を意図していることは、 これら
の海洋調査船が搭載してい
る観測機器からも裏付けられる。 あるいは 「口上書」 に記載されていなくても、 過去に
おける東シナ海での調査活
動から、 資源探査を実施したと推定される。
第三に、 調査の主要な目的は次の三点であると推測される。
(1)、 沖縄トラフに重点がおかれているところから、 東シナ海の大陸棚は沖縄トラフで終
わっているとの中国側の立
場を裏づける調査を実施していると推定される。 調査活動を行った艦船のなかに、 「大
洋1」 号と 「科学1」 号が参
加していることは注目に値する。 「大洋1」 号は中部太平洋でマンガン団塊の調査を行
っている艦船であり、 「口上
書」 には 「遠洋科学調査前の艦船および機器設備試験」 と書かれているが、 その調査
海域が沖縄トラフをすっぽり
包摂していること、 「科学1」 号は調査内容に 「国際ODPプロジェクトの一部」と記載され
ているように、 大陸棚の本
格的な掘削を目的としていること、 調査海域が沖縄トラフから尖閣諸島を含めて、 先島
諸島の西端をかすめて与那
国島の南方海域にまで、 含んでいること、 などはそれを裏付けている。 「大洋1」 号と
「科学1」 号、 その目的から
考えて、 かなり高度な観測機器を装備していると見られる。
(2)、 日本側海域の大陸棚に平湖油田に次ぐ石油鉱脈を探している。
(3)、 全体として東シナ海における潜水艦の航行のための調査を実施している。 この調
査は二〇〇一年七月に、 わ
が国の種子島東南海域から、 小笠原諸島に近い広大な太平洋海域で、 中国海軍の情
報収集艦 「塩」 が約一カ月
にわたって、 海洋調査を実施した。 この海域は水深四千bの深海であり、 原子力潜水
艦の航海のための調査を実
施したことは間違いない。
このように中国の海洋調査活動は、 両国政府が 「口上書」 で合意した 「科学調査」
の範疇を越えて、 資源探査
や軍事目的の調査にまで及んでいると考えられ、 わが国の権益が侵害されていること
になるが、 わが国の外務省
は 「科学的調査」 であるから問題とならない。 わが国の海上保安庁関係者によれば、
こうした調査活動は 「口上
書」 交換以前の活動と変わるものではない、 と説明している。 そのことは何よりも、 海
洋調査活動を行っている中
国の海洋調査船が、 「口上書」 に基づく海洋調査が実施される以前の時期に海洋調査
活動を行った調査船である
ことから裏づけられる。 事前通報制度の導入により 「合法的調査」 になり、 中国の海洋
調査活動に日本政府が
「御墨付き」 を与えることとなったということができる。
(1)以上の記述は、 中国政府の作成した 「事前通報」 による。
(2)「違反多発の中国海洋調査、 外務省また二件許可」 『産経新聞』 二〇〇一年八月
四日。
(3)ODPについては、 拙著 『続中国の海洋戦略』 (一九九六年、 勁草書房) 第七章
「活発化する中国の東シナ海
資源探査」 を参照。
(4)「中国調査船が活動再開、 事前通報の三隻 『資源目的』 の指摘も、 東シナ海」
『東京新聞』 二〇〇〇年四月
二十三日。 この報道を受けて、 筆者は五月十九日付 『産経新聞』 「正論」 欄に、 「目に
余る中国の海洋調査船、
東シナ海で日本政府の 『お墨付き』」 を書いた。 これは五月二十九日付 Japan Times
の OPINION に訳載された。
Slyly, China extends its reach.
(5)「事前通報制を盾に近海で資源調査、 中国船野放し」 『産経新聞』 二〇〇〇年六
月七日。
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二、事前通報制度の枠組み作り
東シナ海・日中中間線の日本側海域における中国の海洋調査船の活動は、 平成八年
が十五回、 九年四回、 十
年十四回、 十一年三十回に達したばかりか、 軍艦まで出現するようになり、 さらに十二
年には八月初頭で十七回
に達した(1)。 だが、 わが国の外務省がこの問題に関心を向けるようになった重要な契
機は、 中国海軍の 「塩冰」
級情報収集船が、 対馬海峡、 津軽海峡を通って、 本州の太平洋沿いに南下し、 犬吠
埼沖で情報収集活動を行っ
たりして、 日本を一周したことであった(2)。 この事態は、 日本政府・自民党に衝撃を与
え、 折から問題となりつつあ
ったわが国の対中ODA援助の見直しを背景に、 わが国外務省はようやく重い腰をあげ
て、 中国政府と交渉した結
果、 今年二月の 「口上書」 の交換となった。
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(1)、 北京での日中安保対話
二〇〇〇年六月十九日北京で開催された中国との第七回安全保障対話で、 日本側
は、 排他的経済水域での海
洋調査は日本の同意を必要とする」 と申し入れ、 懸念を表明するとともに、 「調査前に
日本の同意を得るよう求め
た」。 これに対して、 中国側は 「一部境界線を跨ぐものもあるが、 一般的には日本が管
轄権を持つ海域では活動し
ていない」 と述べて、 中間線の考え方を否定する立場を確認した後、 「中国側は責任あ
る態度をとっているが、 日
本の申し入れも重視する」 と述べ、 「日中が相互通報するのであれば、 賛成だ。 具体
的にどうするかは今後相談し
たい」 と応じた(3)。
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(2)、 北京での外相会談
この問題は同年七月のバンコクで開催された一連のASEAN会議に出席した日中外相
の間で行われた会談、 つい
で八月二十八日北京で開催された日中外相定例会談の主要な議題の一つとなった。 わ
が国国内ではわが国の対
中ODA援助の見直しを求める動きが自民党内部から出始めていたこともあって(4)、 日
本国内の中国に対する厳しい
視線を 「予想以上にはっきり言った」 という日本政府筋の説明にも関わらず、 突っ込ん
だ議論は行われなかったよう
であるが、 事前通報制度作成への一歩となった。
すなわち会談では、 河野外相が 「中国の海洋調査船が日本の排他的経済水域などで
事前の連絡もなく調査をす
るのは問題だ。 中国側から何の説明もないことは不満だ」 と述べたのに対して、 唐家
外交部長は 「相互通報の枠
組みを作っていきたい。 両国間の事務協議をしたい」 と答えた(5)。
日本の報道では伝えられていないようであるが、 中国側の報道によれば、 唐外交部
長はこの会談で、 「中国の
科学調査船が東海の中日係争水域で活動していることに関して、 中国側の原則的立場
を説明した」 と次のように
報道している。 「中日両国は東海の境界画定問題でまだ共通の認識に達しておらず、
現在の問題の核心はここに
ある。 中国が国際法と国際慣例に基づき、 関係水域で科学調査活動を行うのは、 完全
に正常なことである」。 相
互通報については、 「それぞれ側の自主的な行為であり、 東シナ海の境界線問題にお
ける中国側の東海境界画
定問題での立場に影響するものではない」 としている(6)。
日本側が 「海洋調査船」 あるいは 「海洋調査活動」 という言葉を使っているのに対し
て、 中国側は 「科学調査
船」 あるいは 「科学調査活動」 という言葉を使っている。 同じ調査について、 日中の見
方は異なっていると思われ
る。 おそらく中国側は当初から一貫して、 「海洋調査活動」 ではなく 「科学調査活動」 と
いう言葉を使用しているの
ではないかと思われる。 また日本側が 「日中中間線の日本側海域」 としているのに対し
て、 中国側は 「係争水
域」 あるいは 「関係水域」 としている。 特に 「それぞれの自主的な行為であり、 東シナ
海の境界線問題における
中国側の東海境界画定問題での立場に影響するものではない」 としている下りは、 海
洋調査活動に関わりなく、
東シナ海は 「中国の海」 であることに変わりはないとの立場を確認した言葉として重大
な意味を持っていた、 と筆者
は見ている。
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(3)、 朱鎔基総理の日本訪問
八月三十日、 朱鎔基総理は河野外相と会談した際、 「敵意を持ってやっているつもり
はなかった。 国際法に合致
している行動で、 日本に不安や反感を引き起こすとは思いもしなかった。 事前通報制度
の創設など適切な措置が
取れた。 双方に悪意がない場合でも、 悪意ととられることがある。 よく連絡をとって理解
を深めたい」 と説明し、 西
部開発など中国の大規模プロジェクトへの日本の経済協力に期待を表明したという(7)。
九月十五日北京で、 相互事前通報の枠組み作りについて話し合う初の日中事務レベ
ル協議が開催され、 双方
は交渉の加速が必要との認識で一致した。 また、 〔1〕事前通報は排他的経済水域境
界画定における双方の立場
に影響を与えない、 〔2〕事前通報の目的は相互信頼の増進−−とする基本姿勢を確認
した。 事前通報の具体策
については、 双方が通報方法、 内容、 期限、 通報が必要な海域などに関する自国の
基本的立場を提示し、 これ
を受けて調査の実施機関などとの間で国内調整を進めることになった(8)。
朱総理の日本訪問を前にした九月二十五日、 両国政府は事前準備のための外交当
局間協議を開いた。 日本側
は 「枠組みが合意されるまで、 調査船の活動は自制して欲しい」 と改めて要請し、 中国
側は 「枠組みを作る方向
で努力することでは一致しているので、 事務レベルの協議を進展させたい」 と答えた
(9)。 十月十二日訪日した朱総
理との会談はこの合意に従って行われた。 森総理は海洋調査活動について自制を求め
るとともに、 相互事前通報
制度の枠組み作りのための協議を促進する考えを表明し、 他方朱総理は、 「境界画定
が行われていないことが主
な原因で、 日本に悪意を持ってやっているわけではない。 通報制度は事務当局を督促
し、 合意点に達したい」 と
述べた(10)。
(1)これらの活動の概要については、 筆者 「拡大する中国の東シナ海進出−−侵食さ
れるわが国の経済水域」
『東亜』 一九九九年四月号を参照。
(2)拙稿 「日本近海に迫る中国の軍艦」 『問題と研究』 二〇〇一年十月号を参照。
(3)「日中安保対話、 中国海軍に懸念表明、 津軽海峡などで活動、 日本 『同意が必
要』」 『産経新聞』 二〇〇〇
年六月二十日、 「海洋調査は事前同意を、 安保対話日本側、 中国に要求」 『読売新
聞』 同年六月二十日。 この
対話には、 日本側から槙田邦彦外務省アジア局長、 高見沢将林防衛庁調査課長、 中
国側から張九桓外交部ア
ジア局長、 苗鵬生中国軍参謀部局長らが出席した。 なおこの安保対話について、 中国
側は公式に何も報道してい
ない。
(4)「中国艦船の活動、 自民内に反発、 特別円借款、 逆風強まる、 外相訪中に火種」
『朝日新聞』 二〇〇〇年
年八月八日。 「自民合同部会、 中国船問題で批判続出、 対中政策ODA見直しも検討」
『産経新聞』 二〇〇〇年
八月九日。
(5)「対立棚上げし友好強調、 河野外相の中国訪問」 『朝日新聞』 二〇〇〇年八月三
十日、 「外相会談要旨」
『朝日新聞』 二〇〇〇年八月二十九日。
(6)「唐家与日本外相河野洋平挙行会談」 『人民日報』 二〇〇〇年八月二十九日。
(7)「艦船活動、 敵意なし、 中国首相が河野外相に」 『朝日新聞』 二〇〇〇年八月三
十一日、 「朱首相、 河野外
相に表明、 艦船活動敵意ない」 『日本経済新聞』 二〇〇〇年八月三十一日。
(8)「日中調査船問題、 交渉加速で一致、 事務レベル協議」 『読売新聞』 二〇〇〇年
九月十六日。
(9)「政府、 当局間協議で改めて中国調査船活動の自制要請」 『読売新聞』 二〇〇〇
年九月二十六日。
(10)「首相調査船活動の自制求める、 日中首相会談、 半島緊張緩和へ協調」 『産経
新聞』 二〇〇〇年十月十三
日、 「日中首相会談の要旨」 同十月十四日。
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三、日本政府「お墨付き」海洋調査
(1)、 事前通報の内容と問題点
二〇〇一年二月十三日付外務省大臣官房報道課が出した 「海洋調査活動の相互事
前通報の枠組みの実施の
ための口上書の交換について」 という外交文書によると、 「平成十二年八月二十八日
北京で行われた日中外相会
談において、 海洋調査船の問題に関して、 相互事前通報の枠組みを作ることで一致し
たことを踏まえ、 事務レベル
の協議を継続してきた結果、 今般双方で妥協した」 として、 「海洋調査活動の相互事前
通報の枠組みを、 二月十
四日から実施するための口上書の交換が、 二月十三日北京において、 在中華人民共
和国日本大使館と中華人民
共和国外交部との間で行われた」。
口上書は、 中華人民共和国外交部が在中華人民共和国日本国大使館に宛てたも
の、 および在中華人民共和国
日本国大使館が中華人民共和国外交部に宛てたもの、 の二部からなっている。 それぞ
れ六項目からなっており、
項目の配列順序に相違はあるが、 内容は同一である。 「通報事項」 は以下の三点であ
る。
(1)通報の対象水域
東海 (東シナ海を指す−−引用者) における相手国の近海 (領海を除く)
中国側 「日本側が関心を有する水域である日本国の近海」
日本側 「中華人民共和国の近海」
(2)事前通報の時期
外交ルートを通じ、 調査開始予定の少なくとも二カ月前までに、 口上書により通報す
る。
(3)通報事項
〔1〕海洋の科学的調査を実施する機関の名称、 使用船舶の名称・種類、 責任者
〔2〕当該調査の概要 (目的、 内容、 方法および使用器材)
〔3〕当該調査の期間および区域
ほかに 「本件枠組みの円滑な運用及び個別調査活動に伴う問題の処理のため、 日中
双方で協議を行う」 こと、
「本件枠組みに基づく通報は、 二〇〇一年二月十四日より行う」 こと、 「本件枠組みの
あり方については、 運用の
実績を踏まえ、 必要に応じ、 日中双方で協議を行う」 こと、 「本件相互事前通報の枠組
み、 及びこの枠組みの下
で行われる双方のやりとりは、 海洋法に関する諸問題についてのいずれの一方の側の
立場に影響を与えるものと
みなしてはならない」 ことが決められている。
「口上書」 は外交文書であるから、 中国側はここに書かれている内容を守らなければ
ならず、 これまで無法状態
に置かれていた東シナ海での中国の海洋調査活動は、 これで一件落着したとわが国の
外務省関係者の多くは評
価しているようである。 例えば二〇〇一年六月十五日の衆議院外務委員会で、 自由党
の土田議員の質問に槙田
アジア・太平洋局長は、 次のように答えている。 「わが国の排他的経済水域において、
わが国の事前の同意もな
きままに、 中国の海洋調査船が頻繁に活動を行っている。 このまま放置するわけには
いかない」 ので、 境界線画
定という 「基本的な問題は別の場で交渉するとして、 海洋調査船については現実的な
解決を図っていくことで交渉
し、 事前通報制度を作った。 この点を是非ご理解頂きたい」(1)。
しかしこの文書には、
〔1〕 「海洋の科学的調査」 とは何かについて、 特に問題となっている 「資源探査」 と
「科学調査」 の違いについ
て、 具体的に何も説明していないこと、
および、
〔2〕東シナ海の排他的経済水域および大陸棚の境界線画定が行われていない状態の
下で、 わが国が 「主権的権
利」 を有する海域における中国の 「科学的調査」 を、 「事前通報」 を前提に 「合法的」
と認めてしまったことに重大
な問題がある。
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(2)、 「調査海域」 の食い違い
「口上書」 には、 「調査海域」 に関して、 両国間に重大な問題が存在する。 すなわち
日本側が中国政府の同意
を得て海洋調査を実施できる海域は 「中華人民共和国の近海」 であるのに対して、 中
国側が日本政府の同意を得
て実施できる海域は 「日本国の近海」 ではなく、 「日本側が関心を有する水域である日
本国の近海」 である。
中国側が事前通報海域を、 「日本側が関心を有する水域である日本国の近海」 とした
ことに対して、 わが国の外
務省幹部 (槙田アジア局長?) は、 「実質的には中間線の日本側海域が事前通報の対
象水域となるという解釈
で、 中国側の理解を得られた」 と評価したようである。
東シナ海の日中中間線・中国側海域について、 中国が主権的権利を有しているとの中
国政府の立場を日本政府
は認めているのに対して、 東シナ海の日中中間線・日本側海域は日本が主権的権利を
有する海域であることを、
中国政府は一度も認めたことはない。 今回その日本政府の立場に 「理解」 を示しただ
けにすぎない。 中国側のこ
の立場は、 先に論じた二〇〇〇年八月の日中外相会談における唐家外交部長の発言
のなかに明確に現れてい
た。 唐外交部長は、 「中国が関係水域で科学調査活動を行うのは、 完全に正常なこと
である」 と述べ、 さらに 「相
互通報は自主的な行為であり、 中国側の立場に影響するものではない」 と明確にして
いた。
「日本側が関心を有する水域である日本国の近海」 という表現は、 「東シナ海の日中
中間線・日本側海域」 に関
する相容れない両国の妥協の産物である。 ある外務省幹部は 「わが国も中国側海域で
科学調査を実施することが
できます」 と筆者に解説してくれたが、 「東シナ海の日中中間線・中国側海域」 に関して
両国政府の間に見解の食
い違いはなく、 したがって日本側は中国側海域で、 例え 「科学調査」 という名目でも、
ボーリングやエアガンを使
用しての海洋調査を行うことは許可されないであろう。
境界線画定をしない条件の下で、 海洋調査活動の実施を認めれば、 それは日本政府
が 「お墨付き」 を与えたこ
とであり、 中国は日本政府の許可を得て堂々と日本側海域で調査活動を実施すること
になり、 現実にそのような事
態に陥ってしまっている。
わが国の外務省は、 そのような事態を回避するために、 「本件相互事前通報の枠組
み、 およびこの枠組みの下
で行われる双方のやりとりは、 海洋法に関する諸問題についてのいずれの一方の側の
立場に影響を与えるものと
みなしてはならない」 との一札をとってあると反論するであろう。 だが例えば尖閣諸島の
領有権問題をめぐる日本政
府と中国政府の対応を回顧するならば、 そのような取り決めが如何に儚いものか分か
るであろう(3)。 後述するよう
に、 口上書にはその内容に違反した場合の罰則事項はなく、 実効性については、 「相
手を信頼するほかない」 と
先の 「外務省幹部」 は述べているのである(4)。 政府・自民党の圧力で、 事前通報の枠
組みを作ればよいとの安易
な立場から行われたのであろう。
さらに中華人民共和国外交部の口上書ばかりでなく、 日本国外務省の口上書におい
ても、 その冒頭で、 「東海
海域の境界画定前に当該海域において海洋の科学的調査を行う場合、 相互事前通報
を実施する」 と書いてあるよ
うに、 東シナ海を中国側の呼称である 「東海」 という言葉を使用しているところに、 日本
国外務省の腰抜けな立場
がよく現われている。 これで相互主義といえるのか。 どうしてこのような日本の国益を無
視した外交文書を外務省は
調印したのか(5)。 <<前へ 次へ>>
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(3)、 「海洋調査」 と 「海洋の科学調査」
「口上書」 は 「海洋の科学的調査」 を対象としており、 「資源探査」 を対象としていな
い。 それ故 「海洋の科学
的調査」 とは何か、 「資源探査」 と 「海洋の科学的調査」 との違いが明らかにされる必
要があるが、 「口上書」 は
これについて何も説明していない。
海洋法条約は、 公海における 「海洋科学調査の自由」 を規定している (第八七条第
一項) ばかりか、 沿岸国は
「自国の排他的経済水域内及び大陸棚上において、 他の国または国際機関」 により、
「専ら平和的目的」 で、 あ
るいは 「すべての人類の利益のために海洋環境に関する科学的知識を増進させる目
的」 で、 実施される海洋の科
学的調査計画には 「同意を与える」 と規定して、 排他的経済水域内および大陸棚にお
ける外国の 「科学調査」 の
実施を認め、 さらに沿岸国の 「許可が不当に遅延し、 または拒否されることのないこと
を確保するための規則及び
手続きを設定する」 ことを規定している。 (第二四六条第三項) さらにその規定は 「沿
岸国と調査を実施する国との
間に外交関係がない場合にも」 適応される (第四項)。
しかしながら上述した 「公海における海洋科学調査の自由」 の規定は、 排他的経済
水域および大陸棚に対する
沿岸国の 「主権的権利」 に関する規定により規制されている。 海洋法条約によれば、
沿岸国は排他的経済水域
において、 〔1〕海底の上部並びに海底及びその下の天然資源 (生物であるか非生物資
源であるかを問わない) の
探査、 開発、 保存及び管理のための主権的権利、 〔2〕排他的経済水域の経済的な探
査及び開発のための他の
活動 (海水、 海流及び風からのエネルギーの生産等を含む) に関する主権的権利を保
有する (第五六条)。 次に
沿岸国は、 「大陸棚を探査し、 及びその天然資源を開発するため、 大陸棚に対して主
権的権利を有する」 と規定さ
れている (第七六条)。 「ここにいう天然資源は海底及びその下の鉱物その他の非生物
資源並びに定着性の種族
に属する生物」 を指す (同)。
このように沿岸国は、 自国の排他的経済水域において、 天然資源の探査および経済
的な目的で実施される探査
の主権的権利を有し、 大陸棚において天然資源を探査・開発する主権的権利を有して
いる。 同じ主権的権利でも、
大陸棚に対する主権的権利は、 「沿岸国が大陸棚を探査しておらず、 またはその天然
資源を開発していない場合
においても、 当該沿岸国の明示的な同意を得ることなしに、 これらの活動を行うことが
できない」 こと、 換言すれば
「大陸棚に対する沿岸国の権利は、 実効的な、 もしくは名目上の先占または明示的な
宣言に依存するものではな
い」 点において、 排他的経済水域の場合と異なる。
これに対して 「海洋の科学的調査」 について沿岸国は 「管轄権」 を有しており、 その
管轄権に基づいて、 「海洋
の科学的調査」 を規制・許可・実施する権利を持っている。 (第二四六条第一項) それ
故外国が排他的経済水域お
よび大陸棚において科学調査を行うには、 沿岸国の同意を要する。 (第二四六条第二
項)
その場合に、 〔1〕天然資源 (生物であるか非生物であるかを問わない) の探査及び
開発に直接影響を及ぼす場
合、 〔2〕大陸棚の掘削、 爆発物の使用または海洋環境への有害物質の導入を伴う場
合、 〔3〕第六〇条 (排他的
経済水域) 及び第八〇条 (大陸棚) に規定する人工島、 設備及び構築物の建設、 操
作または利用を伴う場合、
〔4〕第二四八条 (沿岸国に情報を提供する義務) の規定により計画の性質及び目的に
関し伝達される情報が不正
確である場合、 または調査を実施する国もしくは権限のある国際機関が前に実施した
計画について沿岸国に対する
義務を履行していない場合には、 「いずれの沿岸国も、 他の国または権限ある国際機
関による自国の排他的経済
水域内または大陸棚上における海洋の科学的調査計画の実施について、 同意の裁量
により同意を与えないことが
できる」 (第二四六条第五項)。
これらの規定は、 公海なみの海洋科学調査の自由 (第八七条第一項) の保障を求め
た先進工業国の主張と、
沿岸国の同意を要件とすることによりその国家的安全と資源を確保しようとする第三世
界諸国との妥協の結果であ
る。 「沿岸国は排他的経済水域においてこの条約に基づいて、 自国の権利を行使し、
及び自国の義務を履行する
に当たって、 他の国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、 この条約と両立する
ように行動する」 ことが義務
づけられている(6)。
以上述べたところから、 沿岸国の 「主権的権利」 の対象となる 「海洋調査」 は、 天然
資源の探査、 経済的な目
的で行われる探査、 大陸棚の探査に限定されているため、 それ以外の目的で行われる
海底の上部水域並びに海
底およびその下部の探査は、 ここでの沿岸国の主権的権利に属する 「探査」 の範囲外
となる。 天然資源の探査は
生物資源・非生物資源の両者を含み、 また経済的目的であればいかなる物を対象とす
る探査も沿岸国の主権的権
利に包含されるため、 沿岸国の主権的権利から除かれる 「探査」 とは、 非天然資源に
対する探査で、 かつ非経済
的な目的の探査ということになる。 「海洋の科学的調査」 はその目的において 「経済的
な目的」 には当たらないと
考えられるため、 資源以外の事項の探査 (天然資源に該当しない物資の採捕を伴う場
合を含む) については、 「海
洋の科学的調査」 として、 他国が沿岸国の同意を得て実施することが認められることに
なろう(7)。
このようなところから 「純粋の海洋科学調査と探査・開発のための情報収集を厳密か
つ客観的に区別することはき
わめて困難である」 と、 海洋法の解説書には書かれており(8)、 また衆議院外務委員会
での質問に対して、 外務
省中国課の担当者は、 「科学調査と資源調査は極めて概念的な分け方で、 事前研究で
研究目的とされていれ
ば、 同意しないわけにはいかない」 と答えている。 しかしながら先に引用したように、 大
陸棚で掘削を実施したり、
爆発物 (エアガンはそのなかに入る) を使用することに対して沿岸国は同意しなくもよい
ことになっている。 あるいは
調査の実態が不明確であったり、 疑問がある場合には、 調査船に同乗して、 調査を観
察することが沿岸国には認
められているのである。
すなわち海洋法条約第二四八条は 「沿岸国に体し情報を提供する義務」 があるとし
て、 「調査計画の開始予定
の各なくとも六カ月前に、 沿岸国に対し、 次のすべての事項についての説明書を提出す
る」 ことを義務づけてい
る。 〔1〕計画の性質及び目的、 〔2〕使用する方法及び手段 (船舶の名称、 トン数、 種
類及び船級並びに科学的
装備の説明を含む)、 〔3〕計画が実施される正確な地理的区域、 〔4〕調査船の最初の
到着予定日及び最終出発
予定日、 または場合に応じ装備の設置およびその撤去の予定日、 〔5〕後援組織の名
称及びその代表者の氏名並
びに計画の責任者の氏名、 〔6〕沿岸国が計画に参加し、 または代表を派遣し得ると考
えられる程度。
特に〔6〕項に関連して、 第二四九条は調査を実施する国・国際機関が 「遵守する一定
の条件」 の一つとして、
「沿岸国が希望する場合には」、 「海洋の科学的調査計画に参加し、 または代表を派遣
する沿岸国の権利を確保
し」、 「また実行可能な時には、 特に調査船その他の船舶または科学的調査のための
施設への同乗を確保する」
ことを義務づけている。
それ故当わが国政府は、 調査が口上書の内容と合致しているかどうかを点検・確認す
るために、 中国の調査船
に同乗することを要求してもよいし、 ボーリングしたり、 エアガンを使用するなど違法行
為を実施していると見られる
疑惑が生じているのであるから、 同乗すべきである。 ところが先の衆議院外務委員会
(六月十五日) で、 藤野克
彦海上保安庁長官は、 「使用器材、 行動の態様などについて、 残念ながら外観上観察
して、 無線で問い合わせ
て、 事前通報とその調査が一致しているかを確認している」 と答えているのである(9)。
疑惑があるならば、 何故日
本側は中国の海洋調査船に同乗して確認しないのか。
だがさらに不可解なことは、 同じ外務委員会 (六月十五日) で槙田アジア太平洋局長
の発言から、 中国が事前
通報のなかで、 ボーリングとエアガンの使用を通報していたことが分かった(10)。 現実
に三月一日付 「口上書」 第
九号には、 「勘407」 号については 「地質ボーリング」、 「奮闘7号」 については 「エアガ
ンによる地質構造の調
査」 とはっきり書かれている。 土田議員によれば、 「わが国のどこのセクションがボーリ
ングやエアガンを使ってもよ
いと判断したのか」 と事前に質問状を出しておいたにも関わらず、 六月二十日の答弁で
は準備されず、 同議員の
質問に外務省は答えなかったのである(11)。 きわめて無責任なやり方で事前通報が審
議・決定され、 中国側に
「同意」 の返事が伝えられたようである。 なおこの委員会で田中真紀子外相は、 土田議
員の質問に対して、 「経済
水域で資源調査をやっていけないという国際法はない」 と答えて、 失笑を買った(12)。<<
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(1)「第百五十一回衆議院外務委員会会議録第十四号 (平成十三年六月十五日)」 十
五頁。
(2)「日中海洋調査、 通報境界は 『両国近海』、 口上書 『中間線、 中国が理解』」 『毎
日新聞』 二月十四日。
(3)例えば拙著 『続中国の海洋戦略』 (一九九七年、 勁草書房) 第八章 「尖閣諸島を
めぐる国際紛争」 を参照。
(4)「日中海洋調査船事前通報、 『玉虫色』 の決着、 水域不透明、 実効性も不透明」
『産経新聞』 二〇〇一年二
月十日。
(5)『産経新聞』 の質問に対して、 外務省報道官は 「日中で合意され、 国会でも承認さ
れた日中漁業協定でも
『東海』 を使っている。 一般的な慣行である」 と説明している。 「『東シナ海』 公式文書
では 『東海』、弱腰外交の
象徴?、 呼称でも中国に配慮」 『産経新聞』 二〇〇〇年十月十二日。
(6)山本草二 『海洋法』 (一九九二年、 三省堂) 百九十頁。
(7)小幡純子 「日本の国内法制」 『排他的経済水域・大陸棚における海洋調査に関す
る各国国内法制等対応振り
に関する調査』 (平成十一年、 日本国際問題研究所) 八十五〜八十六頁。
(8)前掲山本草二 『海洋法』 二百五十七〜二百五十八頁。
(9)「第百五十一回衆議院外務委員会会議録第十五号 (平成十三年六月二十日)」 十
三頁。
(10)同右、 十四頁。
(11)同右、 十四頁。
http://kazankai.searchina.ne.jp/publishing/toa/2001_10/hira/10.
html
四、わが国に必要な国内法の整備
沿岸国の主権的権利は限定された適用地域と目的の範囲であっても、 「排他性」 を持
っており、 例えば大陸棚で
の探査・採掘の許可と採鉱活動に関する国内法を制定し適用したり、 その違反の防止・
処罰を確保し規制するな
ど、 国内・国外の別なく属地的に (外国人の本国・旗国管轄権を排除して) 国家管轄権
を行使できる。 それ故 「そ
の目的と対象は限定されるものの、 性質上は完全な機能」 といえるとされている。 した
がって同条約上の沿岸国の
主権的権利に属する 「探査」 の内容について、 客観的に条約の解釈上明らかにされる
ことは、 国内法整備の上で
不可欠であろう(1)。 その文脈で、 中国では国内法の整備が進んでいるのに対して、 わ
が国ではほとんど進んでい
ないのが実情である。
(12)同右、 十三頁。
http://kazankai.searchina.ne.jp/publishing/toa/2001_10/hira/11.
html
(1)、 中国の 「排他的経済水域・大陸棚法」
中国は関連した法律を制定している。 九八年六月に交付・発効した中国の 「中華人民
共和国専管経済区域およ
び大陸棚法」 には、 同国の大陸棚について次のような看過できない規定がある(2)。
「中華人民共和国の大陸棚は、 中華人民共和国の領海の外側で本国陸地領土を基
礎とする自然延長 (部分)
のすべてとし、 大陸縁辺外縁の海底区域の海床および底土まで拡張している」。 国連
海洋法条約第七六条には、
大陸棚の距離は一般には 「領海の幅を測定するための基線から二百カイリまでである」
が、 同条第四項の規定に
基づく場合には二百カイリを越えて外縁を設定できる。 その場合には 「三百五カイリ十を
越えてはならない」 と規定
している。 上述した中国大陸棚法の規定には、 距離の制限が規定されておらず、 「自
然延長 (部分) のすべて」
とされていて、 無制限である。 中国は 「国際法の準則に応じて」 とことあるたびに強調
するが、 他方で国際法を平
然と無視することがしばしばある。
同条は、 続いて 「中華人民共和国と海岸で隣接する国家、 あるいは向かい合う国家
との間で排他的経済水域お
よび大陸棚が重なり合う場合には、 国際法の基礎の上に、 衡平の原則に基づいて、 協
議により境界を画定する」
と規定している。 「衡平の原則に基づいて協議する」 との規定は、 一読すると、 「中間
線」 論に立つわが国政府お
よび国際法に従って協議し決定するとの立場に立っているかのように見えるが、 先に述
べたようにこの規定は、 東
シナ海の大陸棚は沖縄トラフで終わっているとの中国側の立場を支持している。
次に、 外国による大陸棚の 「掘削」 は許可しないことを明確に規定している。 同法
は、 「中華人民共和国は、 す
べての目的で大陸棚の上でボーリングを実施する専管的権利を授権し、 管理する専管
的権利を有している」 (第四
条)。 「いかなる国際組織、 外国の組織、 あるいは個人も、 中華人民共和国の専管経
済区域および大陸棚の自然
資源に対して探査・開発活動を実施し、 あるいは中華人民共和国の大陸棚でどのような
目的であれボーリングを実
施する場合には、 中華人民共和国の主管機関の批准を経て、 かつ中華人民共和国の
法律・法規を遵守しなけれ
ばならない」 (第七条)。 「中華人民共和国は専管経済区域および大陸棚に、 人工島・
施設・構造物を建造する権
利を有し、 かつそれらを管理し操作し使用する権利を有している」 (第八条)。 それらの
「人工島・施設・構築物の周
囲に安全地帯を設け、 当該地帯で適切な措置をとって、 航行の安全および人工島・施
設・構築物の安全を確保する
ことができる」 (第八条)。 最後に 「中華人民共和国は専管経済区域および大陸棚にお
いて、 中華人民共和国の
法律・法規に違反する行為に対して、 必要な措置をとり、 法に依拠して法律責任を追求
し、 緊急追求権を行使でき
る」 (第十二条)。
http://kazankai.searchina.ne.jp/publishing/toa/2001_10/hira/12.
html
(2)、 意味のない、 むしろ有害な 「ガイドライン」
日本政府は、 九六年六月二十日国連海洋法条約に批准し、 一カ月後の同年七月二
十日発効したことに伴い、
「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」 を制定した。 同法は第一条で、 「国連海
洋法条約第五部に規定する
沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する水域として、 排他的経済水域を設ける」
こと、 第二条で 「国連海洋
法条約に定めるところにより、 沿岸国の主権的権利その他の権利を行使する大陸棚」
として設定した。 そして第三
条で、 〔1〕排他的経済水域または大陸棚における天然資源の探査、 開発、 保存およ
び管理、 人工島、 施設およ
び構築物の設置、 建設、 運用および利用、 海洋環境の保護および保全、 ならびに海
洋の科学的調査、 〔2〕大陸
棚の掘削、 〔3〕排他的経済水域または大陸棚における公務員の職務の執行 (追跡を
含む)、 およびこれを妨げる
行為−−について、 「わが国の法令を適用する」 ことを規定している。
しかしながら海洋法条約と同時に提出された一連の関連法案のなかには、 水産資
源、 海上汚染などに関する法
律は提出されたが、 排他的経済水域および大陸棚における資源開発の違法行為への
対処を規定した法律はなか
った。 それに代わる文書として、 海洋法条約の発効に合わせて同年七月二十日、 「我
が国の領海、 排他的経済
水域または大陸棚における外国による科学的調査の取り扱いについて (ガイドライン)」
と称する文書が作成され
た。
この文書は 「目的」 として、 「関係省庁の合意により、 海洋法に関する国際連合条約
第十三部の規定に準拠し
て、 我が国の領海、 排他的経済水域または大陸棚における外国による科学的調査に
対する我が国の同意が外国
から見て不当に遅滞し、 または拒否されたこととなることがないことを確保するため、 さ
らに科学的調査を促進し、
容易にするため、 並びに如何なる調査が実施されているのかについて把握し、 調査に
より得られるデータ等につい
ては我が国を含め国際社会が利用する機会を得るとともに、 他の活動の妨げとならない
ための調整を可能とするた
めの手続き等を定めることを目的とする」 と謳っている。
ガイドラインは、 「各国が国内法や主権的権利に基づく主張を相手国に対して一方的に
押しつけて解決できる問題
ではない」 との前提に立ち、 「国際協力により係争問題を平和的に解決する」 立場に立
っている。 日本政府が 「公
海における海洋科学研究の自由」 の立場に立っていることを示している。 貿易立国とし
て、 また先進国としての日
本政府の責任ある立場ということであろう(3)が、 中国の海洋調査船がすでに東シナ海
の日中中間線の日本側海域
で、 事前通報なしに海洋調査活動を実施し、 わが国の抗議、 活動停止の要求を無視し
ている現実をどのように受
けとめているのか理解に苦しむ内容である。
ガイドラインは、 「外国より外交ルートを通じ調査計画書を付して我が国の同意を得た
い旨の要請があった場合、
外務省は速やかに関係省庁と、 同意を与えるか否かにつき協議する」。 「関連省庁」 と
は、 今回の 「口上書」 か
ら、 防衛庁防衛局防衛政策課、 科学技術庁研究開発局海洋地球課、 環境庁地球環境
部企画課、 水産庁研究部
資源課、 資源エネルギー庁長官官房総務課海洋開発室、 運輸省運輸政策局環境・海
洋課海洋室、 建設省河川
局防災・海洋課海洋室、 自治大臣官房企画室である。
「同意を与えるか否かを判断するに当たっての基準」 として、 次の二点が指摘されて
いる。 第一に、 「専ら平和
的で、 かつ人類全体の利益に寄与するものか否か、 および条約第二四六条第五項
「排他的経済水域および大陸
棚における科学的調査」 に掲げられた条文に 「該当するか否か」 をあげている。 そし
て 「条約第二四六条第五項
に該当する場合で、 「同意を与え、 または同意に条件を付すとの裁量を行使する時は、
必要に応じて当該外国の
排他的経済水域または大陸棚において我が国が実施する同様の調査についての同意
との相互主義を条件とする」
とある。 これによれば、 わが国も中国側海域で、 ボーリングやエアガンを使用した海洋
調査を行うべきであるという
ことになるが、 もしわが国が中国側海域でボーリングやエアガンを使用した海洋調査を
行った場合、 中国側はそれ
を許容するであろうか、 大きな疑問である。
第二に、 「当該調査海域の一部または全部が、 日米安全保障条約等に基づき、 米国
に提供された施設、 区域
に該当する場合には、 必要に応じて調査海域の変更に応じることを条件とする」。
最後に 「調査活動が同意の対象となった調査計画書の記載事項通りに行われていな
い場合、 または同意を与え
るに当たって付した条件が遵守されないことが判明した場合には、 必要に応じ、 先方に
事実関係を通報し、 かかる
事態が再発しないよう申し入れを行い、 また調査活動の中止を求める等国際法及び国
内法の許容する範囲内で必
要な措置をとる。 事態の情況に応じて、 その後当該国による科学的調査に対する同意
の付与を差し控えることがあ
りうるものとし、 この場合には、 右を外交ルートを通じ通報する」 とされている。
「口上書」 に基づくわが国の事前通報制度は、 この 「ガイドライン」 に基づいて作成さ
れたことが分かる。 だが本
稿の冒頭でその実態を書いたように、 「口上書」 に基づく中国の海洋調査活動は、 実施
してから四カ月の期間に、
事前通報の枠組みを形骸化してしまっている。 先に書いたように、 国連海洋法条約は
「調査を実施する国が事前
に実施した計画について、 沿岸国に義務を履行していない場合には」、 沿岸国は 「同意
を与えないことができる」
と規定している。 中国側が事前通報の内容を守らないならば、 このような制度は一日も
早く解消することであろう。
そうでないと、 将来に禍根を残すことになる。
わが国政府が国連海洋法条約を批准した時、 筆者は次のように書いた。 排他的経済
水域・大陸棚の問題は、 日
本の主権的権利を侵す国に対して国益を守るために、 日本政府が国家としての措置を
取る権利を行使できるかどう
かである。 権利は持ったが、 行使できないのでは意味がない。 というよりは極めて危険
である。 二百設定に見合う
国家としての態勢が整備されていないところに、 有事を考えない日本国家の現実が現わ
れている(4)。 今筆者は再
度このことを提起しておきたい。
(1)前掲山本草二 『海洋法』 百九十頁。
(2)「中華人民共和国専属経済区和大陸架法」 『人民日報』 一九九八年六月三十日。
(3)山本草二 「海をめぐる諸相−−日本が直面する問題とは」 『外交フォーラム』 二〇
〇一年七月号十六〜二十三
頁。
(4)前掲拙著 『続中国の海洋戦略』 十一〜十二頁。
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